分水嶺付記は前回で終わります。
今回より出会いの続きに戻ります。
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Nさんは「続きはメールにしませんか?」
と提案しました。
個人的なことを話すのに掲示板は向いていないということが
表向きの理由でした。実際はこの頃になるとNさんのことを煙たがる
モノがチラホラと現れ、掲示板の空気を乱し始めていたのです。
旦那さんはNさんの意を汲み、提案を受け入れました。
こうして旦那さんとNさんの交流は掲示板から
メールへと場を移していったのです。
Nさんは考えた末に二葉の写真を送りました。
(Nさんはその場で私達にもその写真を見せてくれました)
1枚目は若い女性の横顔を写したモノでした。
長い黒髪は乱れ、上気した頬に張り付き、顔全体にうっすらと脂が浮いています。
それは”情交”直後の快感の種火を反芻している顔に見えました。
私はチラッとSさんに目をやりました。
優美な女性らしいラインを描く眉と、桜色に艶めく唇。
そしてナチュラルな肌色。すぐにそのメイクがSさんと良く似ている
モノ-Nさんの好みに合わせたメイクだと気付きました。
そのような状態の女性が、艶めかしい赤い長襦袢を纏い、
目を伏せている姿は異様ななまめかしさを感じさせました。
もう一枚はかなり年季の入った写真でした。
写真には純白のウエディングドレス姿の女性が写っていました。
こちらに背を向けている女性は、白いベールとふうわりとしたウエディングドレスを
纏っています。目を引くのは女性が緊縛されていることでした。
背中で互い違いに組んだ白いレースの手袋を纏った手を、褐色の麻縄が縛り付けています。
手首から伸びた縄は背中の中央で胸の方から延びてきた縄と合流し、
がっちりと癒着したかのように一つの瘤状にまとまっています。
よほど念を入れて縄をかけたのでしょう。
細部に至るまで丹念に整えられた縄は、それ自体が美しい芸術作品のような
凛とした佇まいをもっているように見えました。
一点通常と違ったのは、女性の周囲の様子でした。
長いこと放置された廃屋のようで、色あせた雑誌や
年季の入った家具類、薄汚れた家族写真などが乱雑に放置されています。
輝かしいばかりのウエディングドレス姿の女性の姿と朽ちた廃屋。
その対比が妙なエロティックさをかもし出しているのです。
どちらの写真にもNさんの美意識が存分に反映されており、
細部まで手抜き泣く作られた耽美な芸術作品のようでした。
私も、Yも、思わず溜息を漏らしました。