Nさん目を細めながら写真について解説してくれました。
1枚目の写真は私の想像とは違っていました。
女性の様子から、私はてっきり”情交”直後の写真だと思っていました。
しかしNさんの解説によると縄で縛られている事による”縄酔い”のもたらす
恍惚とした表情だったのです。
私は驚きました。
”縄酔い”という言葉を聞くのも初めてなら、
緊縛がこれほど恍惚とした表情-まるで”情交”直後のような陶酔をもたらす
ことすら、その時の私にとって未知の世界だったのです。
そしてもう一枚の写真は…。
Nさんは懐かしい目をし、
「奴嬢の卒業を意味する写真です」
と言ったのです。
写真の女性はNさんと10年近くお付き合いをしていた奴嬢でした。
その女性はお付き合いを始めた当時はノーマルでした。Nさんはそれ以上
女性の素性について触れる気はないようでした。しかしその口調からは、
その女性との想い出を大切にしていることが確実に伝わって来ました。
「彼女にはSとしても、人間としても成長させてもらいました」
とNさんは写真を見ながら言いました。
そしてNさんは、その女性によってSとしての性向
-フェチ的な拘りを持つに至った経緯を話してくれたのです。
ある日、羞恥調教の後、Nさんは改まった奴嬢から告げられたそうです。
「結婚することになりました」と。
そして「卒業させてください」とも。
Nさんは事情を聞くこともなく別れを受け入れました。
Nさんは既婚者であり、奴嬢にはNさんとお付き合いする以前から
結婚を見据えてお付き合いをしている男性がいることを告げられていたのです。
いずれは別れが訪れることが解っていて、その上で主従として
お付き合いをしていたのでした。
意外だったのは奴嬢の次の言葉でした。
「最後に縛ってください。
結婚する前に、ウエディングドレスで」
とNさんに懇願したのです。
Nさんは何も言わずに奴嬢の希望を受け入れました。
純白のウエディングドレスを用意し、そしてある廃村へ奴嬢と共に
訪れたのです。
…その廃村はNさんが生まれ育った小さな村でした。
そして廃墟はNさんが小学生の半ばまで暮らしていた家、
いわばNさんのルーツとも言える場所だったのです。
そこでNさんは言葉を切りました。
私達の反応を伺っているようでもあり、
奴嬢との思い出に浸っているようでもありました。
その時の私には、Nさんと奴嬢の行為がとても淫靡でいて
神聖なモノに感じられました。
そしてこの行為が何を意味するのか。奴嬢がNさんに何を求めたのか。
深く聞かせて欲しいと思いました。
しかし私が尋ねる前に、
「すみません、話が脱線しましたね」
とNさんはそこで思い出話を打ち切ってしまったのです。
(結局奴嬢についての話を聞くことが出来たのは
随分後になってからのことでした)