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目7

うっそうとした山間部を抜けると、見上げるような高さの石垣が
姿を現しました。そして石垣を分け入るように続いている小さな
コンクリートの道が続いています。その道の先にひっそりと佇む古民家、
それがNさんの住み処でした。

私は石垣の側で車を止め、Nさんに電話を掛けました。
これから伺うと連絡をしておこうと思ったのです。

幾度か呼び出し音が鳴りました。しかしNさんは電話に出ません。
留守にしているのでしょうか。

と、古民家に目を向けた時でした。
突然家の右手にある古ぼけた納屋から大きな黒い犬が飛び出してきた
のです。番犬なのでしょう。その犬は車の前に仁王立ちすると牙を剥いて
吠え出しました。

元来動物が、それも特に犬の獣臭さが苦手なYは、私の腕にしがみつ
いてきました。私は「大丈夫だよ」と震えるYの肩に触れました。
私はなんとか犬をなだめようと窓を開け、大丈夫と声をかけてみましたが、
まったく通じません。仕方なくライトでパッシングしても退くどころか、
歯を剥き出しにして威嚇してきます。私は途方に暮れていました。

そこに、のんびりした足取りで現れたのがNさんでした。

Nさんは農作業の最中だったのでしょう。
使い込んだ麦わら帽子に土で汚れた作業着姿でした。Nさんは犬の前に行くと
「リキ」と名を呼びました。その犬はよほどNさんを慕っているのでしょう。
即座に吠えるのを止めると、甘えるようにNさんの手を舐め始めたのです。

Nさんは犬を納屋の柱に無造作に繫ぎました。
その後で私達はNさんに招き入れられ、古民家の居間へと通されました。
独身男性らしからぬこざっぱりとした居心地の良い空間で向かい合うと、
Nさんは、農作業中で携帯を持って出なかったことを詫びられました。

そして、それと同時に今日この家を訪れたことを
心の底から嬉しそうに喜んでくれたのです。

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