Nさんは自然溢れる里山の中をゆったりと歩きます。
何か目にとまったモノがあると、その都度歩を止め、
デジタルカメラで撮影します。それは朽ちて風雨に晒されて
苔むした大木や、小さなキノコであったり、芽吹いたばかりの若葉で
あったり、あるいは穏やかに流れる川のよどみや、そこに潜む魚たち。
鳥などの小動物など多様なモノでした。
Nさんはまるで自然そのものを愛おしむように目を細め、
川を流れてゆく落ち葉を眺めながら、こんなことを言いました。
「人の作り出す芸術はもちろん素晴らしいけども、自然の生み出した
造型にはとても敵わないと感じることがあります」と。
そして、自然の造形美を自分の陶芸に取り入れているのだ、と。
圧倒的な自然の美しさを前にして、私達はうなずかざるを得ませんでした。
私もYも、どちらかといえば都会育ちです。
あまり自然に触れたことのない私達にとって、自然溢れる里山は
まるで別天地のようでした。こうやって自然に囲まれていると、
とても朝まで都内のマンションで過ごしていたとは思えない、美しい光景でした。
大満足の散策でした。
一つ気になることがあったとすれば、それは黒犬のリキのことです。
良く躾が行き届き、またNさんのことを心から信頼している様子で、
Nさんの様子を常に気に掛けていて、決して逆らったり、ヒモを引っ張ったり
しようとはしませんでした。
しかし、ふと気が緩んだ瞬間、幾度かYへ近寄ろうとしたのです。
Yは動物が苦手で、リキのことも出来れば近寄りたくないとNさんに
告げてありました。近寄ろうとするたびにNさんに窘められるのですが、
それでもやめようとしませんでした。
そのことで、Yはリキに対する嫌悪感を抱いてしまったようでした。