その女性-仮に名前はSさんとしておきます。
Sさんとお会いしたのはそれから三週間後の週末の昼。
都心にあるシティホテルの静かなラウンジでした。
…三週間。長いと思っていても、日々の慌ただしさに押し流され、
当日の朝はあっという間にやってきました。
私とYは数日前から緊張を隠せませんでした。
まるで受験を控えている受験生のような有様でした。
前夜に至っては一睡もすることが出来ず、ポツポツとベッドの
中で今日のことをとりとめもなく話してみては、どんな話になるのか
想像すらできず、黙ると言ったことの繰り返しでした。
駅からホテルへと向かうタクシーの中でも、互いがガチガチに
緊張していることが伝わって来るほどでした。
ホテルのエントランスでタクシーから降りると、
私はNさんに電話を掛け、到着を伝えました。
にこやかな声のNさんが、ホテルの三階にあるラウンジで
待っています。と答えてくれました。
背筋の正しいドアマンに導かれ、ホテルの内部に足を踏み入れると、
ふ、と音が途絶えました。まるで下界と断絶されたようでした。
普段このような場所に来ることの少ない私達にとって、
シティホテルはある意味別世界のような場所でした。
豪奢でシックな古い英国調の調度類に圧倒されながらも、
男である私がYをリードしなければいけない、という妙な義務感に背を
押されながらエレベーターでラウンジのある階へ向かいました。