私達の返事を予想していたのでしょうか。
(もしかしたら私達が断ったとしたら、夫婦として使おうと
していたのかもしれませんが)
Nさんはそのホテルの部屋をひとつ予約していました。
こぢんまりとしていても、隅々まで手入れが行き届いていて、
窓の外に美しい庭を眺めることの出来る心地良い部屋でした。
私とYは並んで柔らかなソファーに腰掛け、テーブルを挟んで
対面にNさんとYさんが並んで腰掛けました。
改めて二人を見てみると、その姿は長年寄り添った夫婦のように
見えます。それは二人の間に醸し出されている空気、睦み合った男女の
間に流れる独特の安らかな空気とも言えるようなモノがあるような、
そんな風に見えていたのです。
私とYは、戸惑っていました。
聞きたいこと、知りたいことは幾つもありました。
事前に二人で相談して、リストになるくらいの項目を
考えて今日という日を望んだのです。
それでも、いざお二人を-現実を目の前にすると、緊張から、
何から聞けば良いのか。頭が真っ白になってしまったのです。
そんな私達の様子を見、気遣ってくれたのでしょう。
まず口を開いたのはNさんでした。
それも、「お腹の子の父親、気になさっているようですね」
と、もっとも気になっていた点に触れたのです。
私は自分の卑しさが見透かされたようで、
恥ずかしいyたら、情けないやら、複雑な気持ちながら、
「正直に言えば、気になります」と率直に答えました。
Nさんは大きく頷き、「もっとも大切なことですから」と言い、
答えてくれたのです。
Sさんのお腹の子供は紛うことなきSさんの夫の子供でした。
というのも、Nさんは三十代後半でパイプカットを行っており、
子供が出来ることはない、というのです。
そして、このような事態を想定していたかのように、
(実際は話を進める上で、私達に見せるつもりで持参してきた
ようでしたが)パイプカットの手術をした診察書のコピーを見せて
くれたのです。
Sさんがやんわりと微笑みながら、
「私達がお話を進める上でも、避妊に関して、もっとも気がかりでした」
と、言いました。