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刹那の悟り

盛夏の最中、私とYは青山の路地裏に佇む
こぢんまりとしたアンティーク和服の専門店を訪れていました。

Yは茶道の免状をもっていることもあり、日常的に和装をする
機会があります。彼女は現代の和服よりも、アンティークな和服の柄や
小物の持つ柔らかな空気感を好みます。アンティーク和服の専門店を
訪れるのは趣味のひとつでもありました。

Yは真剣な顔で、同年代の女性店員と和服の柄や、
それに合わせる帯、小物について熱心に相談しています。

この日Yが目を留めたのは象牙のような淡い白地に、藍色の濃淡で流水に
網代、梅や牡丹、紅葉などの草花が染め抜かれた涼しげな和服でした。
それに合う帯や小物を物色していたのです。その手の事柄に疎い私は、
軒先に吊された風鈴の涼やかな音色に耳を傾けつつ、女性陣のいつ終わる
とも知れぬやりとりをぼんやりと眺めていました。

無邪気に買い物を楽しむYの姿を見ていると、無垢な少女のようにも見えます。
彼女の内に淫らな”牝”が同居しているとは到底思えません。しかし、”情交”は
行われ、枷から解き放たれたYが”牝”となったのは紛うことのない事実なのです。

そんなことをつらつらと思いながら、一時間ほどが経ったでしょうか。
「お待たせしました、良いお買い物が出来ました」と、ホクホク顔のYに
声をかけられました。最終的に彼女が選んだのは、先ほどの和服に合
わせた無地の濃紺色の帯でした。

熱海での結婚式の日から、早くも1ヶ月が過ぎようとしていました。

その間、私達はNさんと電話やメールでやりとりすることはあっても、
直接お会いすることはありませんでした。

仕事が忙しく余裕がなかったこともあります。

ですが、本当の理由は…。

「刹那の悟り」という言葉があります。
誰にでも時折訪れる感覚-心が限りなく平穏で、澄み渡り、全ての
物事を俯瞰して見ることが出来る。そんな安定した状態のことです。

熱海での挙式の後、枷から解き放たれた私は、「刹那の悟り」の
状態にあったのです。

コメント

最高の人生

最高に興奮します。たまりません、続き楽しみにしてますね宜しくお願いします

Re: 最高の人生

ともさん

長期休みなどあり、バタバタしていて
中々続きを書くことが出来ませんでした。

来週より再開予定ですので
少々お待ち下さい。

またおいでください

再開楽しみにしてます

Re: タイトルなし

たけさん

楽しみにしていただいてありがとうございます。
お待たせしてしまって申し訳ありません。本日より再開いたします。

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