ある日、Yが何の気なしに姉の服を着たことから始まったのです。
Yが小学低学年の夕方でした。
いつものように母親から渡された洗濯物を自分の部屋に
持っていったYは、自分の洗濯物の中に姉のお気に入りの
ワンピースが混じっていたことに気付いたのです。
それは、フジの花柄の刺繍が美しい長袖のワンピースでした。
姉のお気に入りで、誕生日の日など、大事な日だけに着ることに
している特別な洋服でもありました。
普段のYならば、そのまま母に間違っていたことを伝え、
ワンピースを返していたでしょう。
しかし、その時は魔が差したのです。
Yは、恐る恐る姉のワンピースを身に纏いました。
まるで悪いことをしているような、そんな罪悪感と共に、
心の底には不思議な高揚感があったそうです。
そして、鏡の中の自分を見、息を飲みました。
夕焼けの中で、見慣れた女の子が緊張した面持ちで立って
いました。
…それは、姉でした。
普段の地味で、姉の影に隠れたYではなく、
幼い頃の姉そっくりの女の子がそこにいたのです。
Yは長い間鏡の中の自分に見惚れていました。
それからでした。Yは姉の不在を見計らっては、姉の
部屋に忍び込み、姉の服や身に着けている物を持ちだしては、
自分の部屋で身に着けて鏡の中の自分を見るようになったのは。
それ自体は幼い姉妹に良くある出来事かもしれません。
しかし、それで終わりではなかったのです。