美術館を出ると、既に夕方になっていました。
足早に家路を急ぐ人々が目の前を通り過ぎていきます。
しかし、魂の震えるような素晴らしい絵画と出会った興奮
醒めやらぬ私は、Nさんともっと絵画について話したいと
思っていました。その気持ちをくみ取ったのでしょう。
Nさんはカフェに入りましょうか、と誘ってくれたのです。
私達は美術館に併設されているカフェに移動しました。
そこでNさんは彼なりにあの絵の解釈を話してくれたのです。
Nさんの解釈も大方は私と同じでした。
その女性の姿は充実した情交の直後。大きな悦びと安らぎに
包まれながら、無防備に寝ている姿と捉えていたのです。
私は大きな悦びを感じていました。今まで、Y以外にここまで
美術を語ることの出来る相手がいなかったのです。ましてや、
感覚を共有するなど滅多にないことでした。
私とNさんは夢中で絵画について語り合い…。
ふと気付くと、傍らのYが何も語っていないことに気付いたのです。
私はYに水を向けようとしました。しかし言葉を止めました。
というのも、それまで何度も話しを振ってはいたのです。
しかし、Yはどこか心ここにあらずな状態で、生返事ばかりして
いたのです。
この時のYもそうでした。
ぼんやりとして、どこか気怠そうに瞳を潤ませながら、
空想の世界ででも遊んでいるかのような様子だったのです。
Nさんは目配せしました。
彼は無言のウチに「そっとしておいてあげましょう」
そう言ったのです。私もそれ以上Yに触れることはしませんでした。