共有妻Y

そしてNさんは、上野の美術館で行われる美術展を
観るために近々上京するつもりであることと、その際に会い
たい旨を伝えてきたのです。日程はこちらに任せるとの言葉を
付け加えて。

…それは、事実上の最後通牒でした。
その機会を逃せば、この関係を清算すると、
暗に伝えているのです。

画面が凍り付いているようでした。
点々と、カーソルだけが点滅する様が、
余計に寒々しさを感じさせたのかもしれません。

私もYも、そしてNさんも何も言いませんでした。

…どれだけ時間が経ったでしょう。
5分とも1時間とも感じられた後、この重々しい沈黙を破った
のは、意外にもYでした。

「お会いしたとき、性的な接触はしないと
約束してくださいますか？」と、ひたむきな眼差しで
文字を打ち込んだのです。

すぐに、「約束します」とNさんからの返事が返ってきました。

Yが大きく息を吐きました。
そして私に向けてやんわりと微笑むと、「私はお会いしても
良いと思います。mitsuさんはどうですか？」と、尋ねて来たのです。

続けて、この関係を続けるならば、いつかはNさんと会わなければ
ならない。そのことは関係を始めた当初から覚悟していたことを
告げたのです。もっとも、このタイミングで決めるとは想っていなかった
とも彼女は言ったのですが。

その上で、性的な関係抜きにNさんとは会ってみたいと
想っていたことも告げられました。

私は、いざという時のYの芯の強さに驚いていました。
そして同時に、自分の優柔不断さに情けなくなっていました。

時間をもらって考えたい。
その場での決断を避け、結論を先延ばしにする。
それが私の中に浮かんでいた唯一の応えだったのです。