私はしばし写真に映し出された世界の醸し出す妖気とでも言うような
妖しい性に魂を奪われたように時を忘れていました。
やがて私ははっと我に返りました。
傍らのYに目を向けてみると、
彼女もまた、私と同じ、写真に魂を奪われたように
微動だにせず見入っています。
その瞳は潤み、小さな桜色の唇がうっすらと開いていました。
そして明らかに呼吸は荒くなってるのが見て取れました。小さな手は
硬く握りしめられています。その姿は相互オナニーで自分の世界に没入
している時のYそのもののように思えました。
「その写真はね…」と、Nさんの声が聞こえたのは、その時でした。
恐らく私が我に返る時を待っていたのでしょう。静けさに染み入る
ような深く落ち着いた声でした。
Nさんは、その写真が以前関係を持っていた寝取られ夫婦のモノである
ことを告げました。そしてその写真は擬似結婚式の初夜のモノであると続けました。
「擬似結婚式?」と、その言葉の意味を測りかねた私が聞き返すと、
Nさんは静かに頷き、さらに説明を続けました。
擬似結婚式というのは、それまではただのプレイの相手に過ぎない
存在であるNさんが、もう一人の夫として正式な権利を得るための象徴的な
儀式であることを話してくれたのです。
そして、擬似結婚式を挙げることを求めたのは、倒錯的な願望を持つ、
寝取られ夫婦の夫の方であることと、その夫の話を聞いたNさんが、
非常に共感し、取り入れた儀式であることを話してくれました。
(その夫婦とお付き合いをするまで、Nさんはそこまで深い関係性を
持つことはなかったということです。その意味では夫の倒錯にNさんが
巻き込まれたのかもしれません)
その上で、「私が求めているのはYさんを”共有妻”とすることです」と
はっきりと断言したのです。