共有妻Y

Yの性欲に触れること。私はそこで頭を抱えざるを得ませんでした。
一般家庭でも「性」に関する話題は秘め事として口に出すことを憚られる
話題です。男兄弟の長兄として育った私には女心の機微には疎い部分が
あります。…どう切り出せば良いのか。ましてや、モラルの強い旧家で育て
られた上に、女性機能に問題を抱えるYの性欲に触れることは禁忌に近い
罪悪感があったのです。

私は何度か、折を見てYに性欲について尋ねようとしました。
滑稽なことに頭の中で性欲についての質疑応答のリハーサルまで重ねていた
のです。性欲はあるのか、どうやって処理しているのか、等。しかし、いざとなると
罪悪感に押し潰されてどうしても言葉が出てきませんでした。

結局、私は回りくどい言葉を放棄しました。
ある夜、ベッドの隣で寝入りそうなYに向かって、「変なことを聞くけど、性欲を感じる
ことはある？」と尋ねたのです。常夜灯のオレンジの灯りの下で、Yが「え？　突然どう
したんですか？」と驚いて聞き返してきたことを思い出します。

頭の中に色々と言い訳めいたことや、取り繕う嘘が浮かんできました。
「知人がそういう話をしていて、Yにも聞いてみようと思った」そう答えようとしましたが、
止めました。正直に対することが誠意だと思ったのです。Yについてもっと深い部分まで
知りたい、と率直な気持ちを伝えました。Yは答えることにやや躊躇していた様子ですが、
「普段あまり気持ちを見せないあなたが私に興味を持ってくれることが嬉しい」と、率直
に答えてくれたのです。

Yも健全な女性です。無論、性欲はありました。
Yの場合、生理が終わって10日前後、排卵日周辺にもっとも性欲が高まると話してくれ
ました。（私はそれまで女性の性欲が高まるのは生理前だと思い込んでいました）
ムラムラした気持ちが高まると、Yは風呂の中でオナニーをして処理をしていました。
元々Yは風呂上がりに洗面所で丹念に髪や肌の手入れをする習慣があるので、
風呂場には長時間籠もることが多いのです。そのせいで、やけに風呂が長いと思いつつ
も、それまでまったく気付かなかったのです。

私はもっと突っ込んで聞こうとしました。
頻度や、どのようなことを考えながらしているのか。いつからしているのか、等、いくらでも
聞きたいことが浮かんできました。